勢いそのままガンガン書いちゃおうのコーナーです
➡結局投稿が遅くなりました
別Motionの解説ではありますが、一応こちらの記事の続きになります
Round 2
Info:
For the purpose of this debate, voter insurance is a scheme in which voters can vote to "purchase" insurance against a candidate winning, instead of voting for their favorable candidate. All voters who insured themselves against the eventual winner of the election will receive a sum of money from the government as compensation, for the projected future harm they will suffer during the term of office.
Motion:
THW implement a system of voter insurance for national elections
(R2, Silver Cup 2024)
海外音源に抵抗がない方はこちらの元ネタ(?)を見ることをお勧めします
Motionの狙い
1.Infoの読解力を育ててほしい
2.世界観の構築を意識してほしい
3.政治・選挙というテーマを勉強してほしい
1.Infoの読解力
MotionについてくるInfoというのは、特定の専門テーマや仮想・架空のモノを扱うディベートにおいて、詳しくない人が初見で専門知識がなくても他生のディベートができるように提供される最低限の情報ですが、
それに加えて、「ACがやってほしい試合へ誘導する」という役割があることも意識してほしいです
(少なくとも私が作るInfoやMotionのWordingは明確に意図を組み込んでいることが多いです)
また例によって別Motionを事例に考えてみたいと思います
Motion:
THBT feminist movement should label incel as a victim of social structure, rather than an enemy of feminism
(R3, Sophomon Cup 2023)
Info:
Incel (Involuntary Celibate) is a member of an online community who define themselves as being unable to get a romantic or sexual partner despite desiring one, and push that responsibility onto shoulders of females for their negligence and abandonment
このInfoはWikipediaの説明を基にしているので、まずは比較してみてください
(大体のInfoはWikipediaだろというのはそう)
Incel is a term associated with an online subculture of people (mostly white, male, and heterosexual) who define themselves as unable to find a romantic or sexual partner despite desiring one, and blame, objectify and denigrate women and girls as a result.
下線部分を主に変えていますが、
一つ目のIncelの属性はディベーターが証明すべき部分(かつInfoで絞ろうが絞るまいがあまり関係ない)なので、簡素化のために削除
二つ目の文章については、表現が無駄に難しいので変えたかったのと、「俺らがモテないのは女性のせいだ」というニュアンスを出したかったため、修正してみました
まあIncelについては学年生大会じゃなかったらInfoつけない可能性もあるくらいにはみんな知っている(知っていてほしい)ことかなと思うので、
いずれにせよInfoの影響はあまりないかもです
もう一つ見てみましょう
Motion:
As you, THW destroy DADDY
(Scarlet SF, Sophomon Cup 2023)
Info:
You are an average-level university debater in mid-tier debate club. One day, you happened to have found DADDY (Debate Aiding Device Dedicated for You), which only you could see/use and no one could recognize its use. DADDY correctly followed your order during rounds, giving possible ideas/logics which supported what you want to prove, and seveal month later you become one of top-tier debater in your community.
2 days before during practice for Sophomon Cup, DADDY started showing strong disobedience to your order, saying DADDY has better understanding and tactics for debate. In that round, you followed DADDY's order and marked incredibly better result than you've ever had. With that evidence, DADDY now has more incentive to make detailed order for you to perform well.
はい、非現実ファンタジー(?)Motionですね
これ私が過去出した中でも結構上位に来るお気に入りMotionなので使わせてください笑
このInfoの読み解きをしていきます
which only you could see/use and no one could recognize its use.
→DADDYは他の人間には使えないし、自分が使ったことも他の人間には認知されない
(但し、DADDYを使ったことがばれないだけで、「あいつなんかずるしてるんじゃね?」とかは思われうる)
DADDY correctly followed your order during rounds, giving possible ideas/logics which supported what you want to prove
→この段階では、DADDYはただのChat GPTのように「指示を聞いてアイディアを出す」という動きしかしていない。つまり、大枠は自分が考えているということ
2 days before during practice for Sophomon Cup, DADDY started showing strong disobedience to your order, saying DADDY has better understanding and tactics for debate
→この段階で、DADDYが言うことを聞かなくなってしまいました
なんなら「お前は馬鹿だから俺の言うことを聞いていれば勝てるんだ」と言わんばかりのテンションですね
In that round, you followed DADDY's order and marked incredibly better result than you've ever had.
→省略していますが、旧DADDYでも”one of top-tier debater in your community”にはなれているんですよね
ただ、新DADDYの下では”Incredibly better result than you’ve ever had"となっているので、もうたぶん国内ぶっちぎり最強とかそれくらいでしょう
With that evidence, DADDY now has more incentive to make detailed order for you to perform well.
→新DADDYは自発的に、かつ勝ちを目指すために動きたがっているようですね
こんな感じのInfoの読解は、いろんな分析に活きてきます
〇YouのInterestは何か?
Gov:元々はAverage, mid-tierコミュニティなので、人の繋がりなど「勝ち以外の部分」も重要視しているのでは?
↑Opp反論:DADDYを使い続けて数か月たっているし、強つよディベーターの仲間入りをして新しい友人や繋がりもできているはず。そっちのほうが重要では?
Opp:そもそもDADDYを拾ったこと、また使い続けて数か月間は違和感がなかったこと自体が、勝ちを最重要視しているということでは?
↑Gov反論:これまでは「自分の指示が大枠」でそれを基に勝つ楽しさがあったのに対して、今後はDADDYの指示に従うだけの作業になるので楽しくない
〇DADDYを使って勝ち続けること/破壊していきなり下手になることは怪しまれるか?
Gov:これまでも大枠は自分で出していたのだから、DADDYを使わなくてもそこまで下手じゃない。かつ、DADDYを使っていたとはいえ数か月はTop tierレベルで競っていたのだから、これまで以上に成長しているはずなので、別に怪しまれない
むしろ、DADDYの指示に従い始めると強さだけじゃなくてディベートスタイルもガラッと変わるので怪しいのでは?
Opp:DADDYを破壊しなくても、自分でバランスを考えて適度に使うことが可能
↑Gov反論:Strong disobedienceを示してくる声が一生脳内で響くの不快では?
といった感じで、「こういう分析をだしてほしいな~じゃあInfoはこう書こうかな」という検討がAC会議内ではなされているということです
またしても前置き長すぎ侍でしたが、本編に戻ります
Info:
For the purpose of this debate, voter insurance is a scheme in which voters can vote to "purchase" insurance against a candidate winning, instead of voting for their favorable candidate. All voters who insured themselves against the eventual winner of the election will receive a sum of money from the government as compensation, for the projected future harm they will suffer during the term of office.
Motion:
THW implement a system of voter insurance for national elections
いくつか思いを込めた部分を抽出して解説します
Vote to ”purchase" insurance
→購入はあくまでも比喩的表現(ダブルクォーテーション)であり、実際にはお金を払うのではなく投票権と引き換えに保険を得ているということ
でも、読み間違えて「保険が高くてPoorが買えない」とか言っちゃう人いるんだろうな~と予想
とはいえこの書き方をしていれば「保険にお金がかかる」という意味にはなりえないので、読解力を試す意味でも残しておくことに
All voters who insured themselves against the eventual winner of the election
→保険を買った人は誰でもお金をもらえるわけではないということですね
保険は候補者を指名する形で購入し、その候補者が選挙に勝った場合のみお金が支払われるということです
will receive a sum of money from the government as compensation
→これも勘違いが発生しうるポイントですね
保険の仕組みを知っている人からすると、保険加入者の支払金がプールになり、そこから補償金が支払われるというお金の流れをイメージしがちですが、
さっき書いたようにこのMotionの「保険」は比喩的表現なので、実際のお金は政府から支払われるということになります
for the projected future harm they will suffer during the term of office
→選挙結果が出た時点で将来的な被害を算定し、Compensatonとして事前に支払うということですね
「マニフェストだけをベースに算定できるのか」みたいな、政策立案ではなく実行のFeasibilityにつながる部分になると思ってこの記載を残しています
それ以外の元のInfoからの変更点は、読みやすさとか繰り返しの削除くらいですね
総括すると、MotionのWordingやInfoの一部を切り取って早とちりせず、しっかり読んでください♡
ということですね(意地悪AC)
2.世界観の構築
これは対ジャッジというよりは対ディベーターかもしれませんが、
「制度の詳細」とか「人々の思考」にとどまらず、「それらが集まった社会・文化ってどんな感じなのか?」ということを考えてほしいな~と思ってもいました
細かい話はこの記事の後ろのほうで書いています
今回のMotionでいえば、まず前提になる細かい話は以下のような部分かなと思います
- どのような人がどのようなIncentiveでInsuranceを買うか
- どれくらいお金をもらえそうなのか、ハッピーになれるか
で、それらを前提として大きな世界観や、選挙戦がどのように変わるかを考えてみてほしいなと思います
- 政治家にとって票稼ぎの戦略はどう変わるか?
- 接戦の選挙戦、また結果が明らかな選挙戦はどのようになるか?
どっちの選挙戦の方がシナリオとして発生する可能性が高いか? - 一部の人にHarmをもたらす政策やそれが議会を通ることは、社会的にどのようにみられるか?それはいいことか?
3.政治・選挙というテーマ
これは知識としてという観点と、ディベートのやり方という観点の両面があります
知識としては、そもそも政治のプロセスがどう流れていくかという点を具体的にイメージできる様になってほしいということです
流れとしては「選挙→法案審議→国会での投票→法律の施行」と書くとかなりシンプルに見えてしまいますが、
各プロセスがどう動いているのか、どんなアクターが絡んでいるのかということを考えるとかなり複雑で、政治って(実は・ちゃんと動けば)よくできている仕組みなんじゃないかなと感じます
選挙活動やロビイングを行う政治団体、政治家を補助する官僚、法案作成に当たって行われる有識者会議や関係者・専門家へのヒアリング、法律がきちんと機能するために必要な行政や司法、などなど・・・
で、ディベートをする上での注意点について
上記プロセスをきちんと理解したうえでMechanismを説明する必要があり、それがジャッジにも具体的に伝わるようにしないといけないのはもちろんのこと、
多くの人が漏らしがちなのはImpactもあるかなと思っています
例えばPolarizationが起きるとか、Populism will be worseとか、いろんな「事象」をいうことは多いですが、
「それがどう悪いのか」という説明は実は結構難しい、というかちゃんと説明しないと評価出来ない(しジャッジも評価してはいけない)と思っています
じゃあどうImpactを出すんだといわれると、Principleに持っていくか、Exampleとして具体的な政策を説明するしかないかなあと思います
Principleはもちろん丁寧で具体的かつロジカルな説明が必要です
適当にThis is bad for democracyとかRepresentation is importantとか言っても評価されないので、
・X is important for democracy, because...
・X is not achieved if Y happens (polarizationとか)
の2点を詳細に説明しましょう
Principleの立て方とか詳細は省くので、こちらの記事をぜひ
政策については、「Polarizationが進むとこういう政策がとられるかもしれない」という具体例かつ可能性を出しているだけということは念頭に置きつつ、「結果としてこういう人が苦しむ可能性がある」という風に人に落ちるところまで説明を伸ばしましょう
まあここまで書いたらMotionのArgumentも結構考えられるんじゃないかなと思いますが、一応ザクっと書いておこうと思います
Government
〇PrincipleとしてなぜInsuranceの選択肢があることが重要か
- Mechanism:Democracyは仕組み上、必ず「損をする人」が出てくる
- 政治とはお金や物質などリソースの分配であるので、貰えない人・他人より少なく持つことになる人が出てくる
- 民主主義は結局のところTyranny of majority(最大得票者・過半数が勝つ)であり、絶対に負ける人が出てくる
- Impact(Harm):損をする人はかわいそうである
- その人のせいではない、環境や仕組み・社会制度のせいで損をしている
- 政治は「国民から奪った権利・リソースの再分配」なので、損をする人は「一方的に国から奪われている」という状況になる
- Exclusivity/Uniqueness:Insuranceがない状況ではこの人たちは救われない
- 選挙で負けておりこの人たちの声が反映されていない
- 特にWinner側(Majority)の声が強いPolitical arenaにおいて、政策の副作用・Harmは注目されず、政治家のアピールに繋がる都合のいいBenefitばかり強調されてしまい、損をする人たちへの補償がなされない
- Impact(Benefit):Insuranceによってこの人たちが救われる
- At leastお金がもらえるので色んなことができる
- 政策の持つ副作用・Negative aspectが選挙戦の段階から争点になりやすい
〇Minorityや政治的弱者が損をする政策が通りづらくなる
- 巨額の予算を補償に充てる必要がある
- その予算は他の政策の縮小や増税の形で補填されるため、結果として政権・政治家の不評に繋がる
- 少なくとも「この政策はこの金額の補償をもってしても必要である」と国民を説得する必要が出てくるため、Accountabilityの観点でよい
〇Minority, disadvantaged communityがより政治に参加・Engageするようになる
- これまではメリットがなかった政治参加が、少なくとも「お金がもらえるかもしれない」となる
- 但しお金をもらうためにはちゃんと候補者の勝つ確率やマニフェストを吟味する必要があるため、よりニュースを見たりするようになる
Opposition
〇どうせ大した金額貰えないのでそんなにメリットない
- 正確な被害額の算定は不可能なので、根拠の提示を求められない、求めづらい
- 国・政府は節約したいので、少なめに見積もって支払する
〇大した金額貰えないのに、PoorやMinorityは投票より保険を優先してしまう
- 結果として勝てるはず選挙も勝てなくなる
- 少なくとも「Minorityを支持する政策は票を稼げないからやめとこう」となってしまい、Pro-minority政治家が減る
- Minorityが候補者への投票をしなくなるため、どのような政策を望んでいるのか分からなくなる
〇損をする人が出てしまう政策が補償金によって正当化されてしまう
- 嫌な人は投票せず保険にしとけとなるため、「苦しむ人を生まないようにしよう」とならない
- 被害が少なくBenefitが多い、より良い政策の議論が進まない
〇仮に大金を支払う場合、経済か政治のどっちがオワコンになる
- 政府のバラマキ支出ばかり増えてえぐいインフレになる
- もしくは、政治家みんな超無難なマニフェストばっかり出すようになり、誰に対するHarmもないがBenefitもない政策ばかりになる
まあこんなもんかな~と思います
ちなみに私が貼ってる音源を見たのはかなり昔で記憶がないので、そっちもぜひ見てください()